バンクーバー南部の町サレーにあるBC電気鉄道 (British Columbia Electric Railway; BCER) 保存鉄道「フレーザーバレー保存鉄道」には整備用の車庫があります。列車運行日は整備作業はしないのでしょう、作業はなく車庫内が一般公開されているので、電車に乗車後は寄ってみるとよいでしょう。印象としては、真新しい車庫でとても整った環境に見えました。羨ましい・・・。
ところでBC電鉄について説明がまだだったので、ここで軽くしておきましょう。BC電鉄は電力会社のBC電力 (BC Electric→現BCハイドロ)の子会社で、バンクーバーとビクトリアでインターアーバン、路面電車、トロリーバス等を運行する会社でした。これらの路線網は元々1890年に3社の私鉄が立ち上げましたが、その後の不況で3社とも立ち行かなくなってしまったので、1895年に統合され1897年にBC電鉄に改組しました。
20世紀に入ると毎度おなじみモータリゼーションとそれに伴う路線バス転換がやってきてインターアーバン大絶滅時代が到来します。とはいえBC電鉄は比較的持ち堪えたほうで、1950年に末端区間が廃止されたのを皮切りに段階的に1958年2月末で全線廃止となりました。ただし線路はいわば地方私鉄と呼ぶべきショートラインのサザンレイルウェイ・オブ・ブリティッシュコロンビアという貨物鉄道に払い下げられて現在も現役です。加えて、一部区間の敷地は高架鉄道のスカイトレインに転用されています。
といった具合です。電車は7台程度の現存が確認されています。廃線時に民間へ払い下げられたものを近年になって保存会が買い戻したりする動きがいくつかあったようです。意外とそういうもんですよね。ちなみに路面電車も数台現存するようで。
とりあえず外にある保存車を見てみます。これはスピーダー(Speeder)といういわゆる保線用の小型モーターカー。詰め込めば8人くらい乗れそうな大きさです。これはBC電鉄由来の車両というわけではなさそう。そして実は現役なんじゃないか・・・?
地味に両運転台です。しかもとても視界が良さそう。
961号機電気機関車。1912年アルコ製です。元々はアメリカ・オレゴン州ポートランドのオレゴン電気鉄道(Oregon Electric Railway)の機関車で、1946年6月6日にBC電鉄へ譲渡されてきたそうな。電気鉄道ですので機関車も電気です。貨物列車の牽引に使われていました。BC電鉄内完結の貨物列車というよりは、カナディアンナショナルやカナディアンパシフィックといった他路線を直通する貨車をBC電鉄内で牽引していたんじゃないかとも思えますが、これは確認できず。
車体は典型的凸型電気機関車です。まあ当然ですがその昔日本がアメリカから輸入していた凸型電気機関車と似ていて、他人とは思えない親近感があります(ただアルコ製凸型電気機関車の輸入例はたぶん無かったと思いますが・・・)。唯一、前面排障器だけはアメリカらしさを主張するパーツです。集電は電車と同じで集電ポールを使います。貨車入換の時は進行方向を頻繁に変えますから、いちいちポールの向きを変えてやるのがとても面倒だったんじゃないかなぁと想像します。ちなみに凸型電気機関車は英語でいうと"Steeple cab"と言います。steepleというのは尖塔という意味なので尖塔型機関車と直訳できますが、尖塔というには尖り具合が足りないような・・・。その点凸型電気機関車というのは的を得た表現でとても秀逸です。
台車。典型的ボールドウィン台車っぽいイコライザー式ボギー台車ですな。日本的に言うと日車D台車に近い構成。ぱっと見電車用っぽくて、なんだか電気機関車っぽくないです。諸元表に拠ればC80型という台車で、車軸の軸箱の蓋に"NATIONAL FLEXO-4 AAR-1943"と書かれていますが、詳細不明。台車と車体が鎖で繋がれているのは、脱線した時に両者がバイバイしないように繋ぎ止めておくもの。そんなにしょっちゅう脱線してたんか・・・?昔からの慣習が残っているだけか?
日本人の鉄道オタクは物珍しいのか途中からボランティアのおじいちゃんが案内してくれて、軸箱の中を見せてくれました。静態保存車でここが簡単に開くものは多くはないよ。車軸を油を染み込ませた毛糸と接させて過熱を防ぐやつ。ころ軸受でない昔ながらの構造です。車軸が意外ときれいなのねというのと、刻印が消しては彫られを繰り返されていて訳わからんのがなんとも。
やけにスポーク本数の多い車輪。初めて見た。
もっと奥を見てみる。やはり吊り掛け駆動方式ですね~。なおボランティアのおじいちゃんは「この日本人どこ見とるん・・・」みたいな顔をしていました。自分も普段ここまで入るこむことはあまりない。モーターはゼネラルエレクトリック製212A型190馬力を4つ。
車内も見せてくれました。キャブの中央に鎮座しているのが電流の伝送装置。
運転台。壁の用箋挟には詳細な諸元が書かれていますが、ここに取り上げるほどではないんで備忘録的にこういうのがあるよと書き記すだけにしておきます。運転台の制御機器、ブレーキバルブ、コンプレッサー、ギヤ比等々・・・。
マスコン。日本のそれと似ていますね。
ブレーキハンドル。2本付いていて、上が独立弁ブレーキ(Independent Brake)、下が自動弁ブレーキ(Automatic Brake)。独立弁は機関車単体、自動弁は貨車も含めた列車全体に制動を掛けます。これも日本のそれと同じです。現代に至る電気機関車の運転機器構成はアメリカ型の影響を受けていることが改めて分かります。当時のヨーロッパ方面の電気機関車はよく分からんですが・・・。
何かあっただろう空間。
ボンネット部の中は抵抗器がたくさん。961号機は以上。
車庫の中に入ります。車庫の一角には作業部屋があって、工具がたくさん。作業机もあって、小物の復元作業なんかに使っていると思われ。いい環境だ。なお、さすがにこれだけの設備をボランティアの自己資金で揃えるのはいくらなんでも難しいです。実際にはスポンサーからの援助を受けています。
次は車庫の中のBC電鉄1207号を見てみます。後で見ますが、さっきの1225号とは実は少し違う車両です。パッと見似ていますけどね。
イコライザー台車。ただしいわゆるボールドウィン台車とはちょっと違う印象。
1207号の車内。1225号と同じラタン生地の転換クロスシート。ちなみに1207号は1905年にニューウェストミンスターの自社工場で製造されたんですが、新製当時は車体が異なっていました。現在の姿は車体更新を受けたものということです。なお廃車はBC電鉄廃線と同じ1958年。
転換クロッスィー。
こっちは喫煙席。ちょっとこの椅子は人権への配慮が無いでしょ・・・。
喫煙席表示。額縁のNO SMOKING表示は路面電車とバスでの禁煙を周知するためのものです。
運転台は似たような配置。
マスコン制御器はカナディアン・ゼネラルエレクトリック製。GEのカナダ法人です。主電動機がGE製なのでその流れでしょう。なお電動機は75馬力、電圧600Vです。
ついでなんでこの1207号の諸元をメモ程度に少し書いておくと、車体長15.3m (50ft 40in)、重量32.5t (71,550lbs)。車体は木造で、禁煙席32席、喫煙席24席。1207号は1958年2月28日の廃車後、ワシントン州の個人に引き取られて保存され、1989年にバンクーバーへ里帰り、その後復元工事が行われて1992年に完了しています。今は静態保存車です。
手ブレーキがあるんだ。なお左で見切れているのが案内してくれたボランティアおじいちゃん。この蛍光オレンジジャケットは保存鉄道ボランティアの共通装備みたいなところがあって、だいたいどこでも着用しているような印象。日本の保存鉄道にもいかがでしょうか?
左が電動発電機(MG)のスイッチ。右が制御器のリセットスイッチ。
車内全景。非常にノスタルジックで良いです。
というところで今日はここまで。
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ところでBC電鉄について説明がまだだったので、ここで軽くしておきましょう。BC電鉄は電力会社のBC電力 (BC Electric→現BCハイドロ)の子会社で、バンクーバーとビクトリアでインターアーバン、路面電車、トロリーバス等を運行する会社でした。これらの路線網は元々1890年に3社の私鉄が立ち上げましたが、その後の不況で3社とも立ち行かなくなってしまったので、1895年に統合され1897年にBC電鉄に改組しました。
20世紀に入ると毎度おなじみモータリゼーションとそれに伴う路線バス転換がやってきてインターアーバン大絶滅時代が到来します。とはいえBC電鉄は比較的持ち堪えたほうで、1950年に末端区間が廃止されたのを皮切りに段階的に1958年2月末で全線廃止となりました。ただし線路はいわば地方私鉄と呼ぶべきショートラインのサザンレイルウェイ・オブ・ブリティッシュコロンビアという貨物鉄道に払い下げられて現在も現役です。加えて、一部区間の敷地は高架鉄道のスカイトレインに転用されています。
といった具合です。電車は7台程度の現存が確認されています。廃線時に民間へ払い下げられたものを近年になって保存会が買い戻したりする動きがいくつかあったようです。意外とそういうもんですよね。ちなみに路面電車も数台現存するようで。
とりあえず外にある保存車を見てみます。これはスピーダー(Speeder)といういわゆる保線用の小型モーターカー。詰め込めば8人くらい乗れそうな大きさです。これはBC電鉄由来の車両というわけではなさそう。そして実は現役なんじゃないか・・・?
地味に両運転台です。しかもとても視界が良さそう。
961号機電気機関車。1912年アルコ製です。元々はアメリカ・オレゴン州ポートランドのオレゴン電気鉄道(Oregon Electric Railway)の機関車で、1946年6月6日にBC電鉄へ譲渡されてきたそうな。電気鉄道ですので機関車も電気です。貨物列車の牽引に使われていました。BC電鉄内完結の貨物列車というよりは、カナディアンナショナルやカナディアンパシフィックといった他路線を直通する貨車をBC電鉄内で牽引していたんじゃないかとも思えますが、これは確認できず。
車体は典型的凸型電気機関車です。まあ当然ですがその昔日本がアメリカから輸入していた凸型電気機関車と似ていて、他人とは思えない親近感があります(ただアルコ製凸型電気機関車の輸入例はたぶん無かったと思いますが・・・)。唯一、前面排障器だけはアメリカらしさを主張するパーツです。集電は電車と同じで集電ポールを使います。貨車入換の時は進行方向を頻繁に変えますから、いちいちポールの向きを変えてやるのがとても面倒だったんじゃないかなぁと想像します。ちなみに凸型電気機関車は英語でいうと"Steeple cab"と言います。steepleというのは尖塔という意味なので尖塔型機関車と直訳できますが、尖塔というには尖り具合が足りないような・・・。その点凸型電気機関車というのは的を得た表現でとても秀逸です。
台車。典型的ボールドウィン台車っぽいイコライザー式ボギー台車ですな。日本的に言うと日車D台車に近い構成。ぱっと見電車用っぽくて、なんだか電気機関車っぽくないです。諸元表に拠ればC80型という台車で、車軸の軸箱の蓋に"NATIONAL FLEXO-4 AAR-1943"と書かれていますが、詳細不明。台車と車体が鎖で繋がれているのは、脱線した時に両者がバイバイしないように繋ぎ止めておくもの。そんなにしょっちゅう脱線してたんか・・・?昔からの慣習が残っているだけか?
日本人の鉄道オタクは物珍しいのか途中からボランティアのおじいちゃんが案内してくれて、軸箱の中を見せてくれました。静態保存車でここが簡単に開くものは多くはないよ。車軸を油を染み込ませた毛糸と接させて過熱を防ぐやつ。ころ軸受でない昔ながらの構造です。車軸が意外ときれいなのねというのと、刻印が消しては彫られを繰り返されていて訳わからんのがなんとも。
やけにスポーク本数の多い車輪。初めて見た。
もっと奥を見てみる。やはり吊り掛け駆動方式ですね~。なおボランティアのおじいちゃんは「この日本人どこ見とるん・・・」みたいな顔をしていました。自分も普段ここまで入るこむことはあまりない。モーターはゼネラルエレクトリック製212A型190馬力を4つ。
車内も見せてくれました。キャブの中央に鎮座しているのが電流の伝送装置。
運転台。壁の用箋挟には詳細な諸元が書かれていますが、ここに取り上げるほどではないんで備忘録的にこういうのがあるよと書き記すだけにしておきます。運転台の制御機器、ブレーキバルブ、コンプレッサー、ギヤ比等々・・・。
マスコン。日本のそれと似ていますね。
ブレーキハンドル。2本付いていて、上が独立弁ブレーキ(Independent Brake)、下が自動弁ブレーキ(Automatic Brake)。独立弁は機関車単体、自動弁は貨車も含めた列車全体に制動を掛けます。これも日本のそれと同じです。現代に至る電気機関車の運転機器構成はアメリカ型の影響を受けていることが改めて分かります。当時のヨーロッパ方面の電気機関車はよく分からんですが・・・。
何かあっただろう空間。
ボンネット部の中は抵抗器がたくさん。961号機は以上。
車庫の中に入ります。車庫の一角には作業部屋があって、工具がたくさん。作業机もあって、小物の復元作業なんかに使っていると思われ。いい環境だ。なお、さすがにこれだけの設備をボランティアの自己資金で揃えるのはいくらなんでも難しいです。実際にはスポンサーからの援助を受けています。
次は車庫の中のBC電鉄1207号を見てみます。後で見ますが、さっきの1225号とは実は少し違う車両です。パッと見似ていますけどね。
イコライザー台車。ただしいわゆるボールドウィン台車とはちょっと違う印象。
1207号の車内。1225号と同じラタン生地の転換クロスシート。ちなみに1207号は1905年にニューウェストミンスターの自社工場で製造されたんですが、新製当時は車体が異なっていました。現在の姿は車体更新を受けたものということです。なお廃車はBC電鉄廃線と同じ1958年。
転換クロッスィー。
こっちは喫煙席。ちょっとこの椅子は人権への配慮が無いでしょ・・・。
喫煙席表示。額縁のNO SMOKING表示は路面電車とバスでの禁煙を周知するためのものです。
運転台は似たような配置。
マスコン制御器はカナディアン・ゼネラルエレクトリック製。GEのカナダ法人です。主電動機がGE製なのでその流れでしょう。なお電動機は75馬力、電圧600Vです。
ついでなんでこの1207号の諸元をメモ程度に少し書いておくと、車体長15.3m (50ft 40in)、重量32.5t (71,550lbs)。車体は木造で、禁煙席32席、喫煙席24席。1207号は1958年2月28日の廃車後、ワシントン州の個人に引き取られて保存され、1989年にバンクーバーへ里帰り、その後復元工事が行われて1992年に完了しています。今は静態保存車です。
手ブレーキがあるんだ。なお左で見切れているのが案内してくれたボランティアおじいちゃん。この蛍光オレンジジャケットは保存鉄道ボランティアの共通装備みたいなところがあって、だいたいどこでも着用しているような印象。日本の保存鉄道にもいかがでしょうか?
左が電動発電機(MG)のスイッチ。右が制御器のリセットスイッチ。
車内全景。非常にノスタルジックで良いです。
というところで今日はここまで。
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