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カナダ航空宇宙博物館の続きです。最後の区画、ジェット機の間へ入ります。この博物館もいよいよ大詰めです。主に第二次世界大戦後のカナダ空軍のジェット戦闘機を展示している場所です。時代が近いだけあって馴染みのある顔も多いです。
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デ・ハビランドDH.100バンパイアMk.3 (De Havilland DH.100 Vampire Mk.3) です。1943年初飛行。イギリス生まれの初期のジェット機のひとつです。第二次世界大戦中に初飛行しましたが戦中の実戦配備はされませんでしたが、戦後はイギリスを始め15カ国で運用されました。カナダにも初めてのジェット機として導入されました。カナダ空軍の戦闘機ではイギリス製はこれが最後となり、以降はアメリカ製あるいは自国製の機体になります。この個体は1948年製で、ケベック州の第1戦闘運用訓練部隊 (No.1 FOTU) で運用を始め、最後は1956年までバンクーバー市の第442飛行隊にいました。退役後は保管されていましたが1964年に博物館入りしました。カナダの博物館だと割と見れますけど、隣のアメリカだとそこそこ珍しいやつです。
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バンパイアのジェットエンジン、デ・ハビランド・ゴブリン2です。遠心圧縮式なので全長はそんなにないんですよねー。排気口の短さを活かすために考えられたのがバンパイアのあの変わった外形になるわけです。
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空気取り入れ口は2つに分かれているんですね。
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カナディアT-33AN (CT-133) シルバースターMk.3 (Canadair T-33AN Silver Star Mk.3) です。1948年初飛行(TP-80Cとして)。いつもの博物館の常連です。ロッキードが開発したジェット練習機ですが、カナダではカナディアがライセンス生産していました。カナディア製ではエンジンにロールスロイス・ニーンを搭載していて、元のアリソンエンジンよりも強力になっています。全部で656機製造され、カナダ以外にもボリビア、フランス、ギリシャ、トルコ、ポルトガル向けに輸出しています。
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この個体は1957年製で、カナダ空軍の訓練部隊で運用されました。1961年2月に朱色に塗り替えられて、単機で曲技飛行をする「レッドナイト」となりました。1964年に博物館入りしています。カナダ空軍最後のCT-133は2002年退役なので、ずいぶん早い引退でした。機体は「レッドナイト」の塗装のまま収蔵されています。機首のマークもそのまま残っています。
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尾翼です。胴体の国籍章は楓の葉が小さめですね。
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主翼端の燃料タンク。内側は防眩用につや消し黒で塗られています。塗分範囲はこんな感じです。
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なぜか二輪車の展示がところどころにありました。これはアリエル社のスクエア・フォア4G Mk.I (Ariel Square Four 4G Mk.I) です。1949年イギリス製です。1000cc4気筒エンジンなんですが、シリンダーが田の字の箱型に並んでいるのでスクエアという名前になっているんだそうな。それって後ろのシリンダーは冷却できないんじゃないんすか、と思ったらやっぱりそういう傾向だったみたいです。現代では見かけないわけですね。
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巨大な遠心装置です。コンクリートの円形擁壁の中には人間が入れるだけの大きさのゴンドラがあって、それに人間を乗せてぐるぐると回すわけです。これは拷問装置ではなくて、今で言うところの戦闘機パイロット用の耐Gスーツの原型を開発するための実験装置です。1930年代後半、トロント大学医学部のウィルバー・R・フランクス博士は、戦闘機が急激な機動を取るとパイロットの下半身に血流が偏ってブラックアウトや失神することを突き止めました。加速度(G)というやつです。そんで、周りを水で囲んだ試験管は高速で遠心機にかけても破損しないことも突き止めました。遠心力が相殺されるからです。この試験管を人間に置き換えれば戦闘機で大きな機動を取ってもパイロットを高加速度から保護できるんじゃね?と考えて開発されたのが初期の耐Gスーツです。水を満たしたスーツの圧力で下半身に逆圧を与えて血流が集まるのを防ぐのです。フランクス自らがそれを着用して実際の練習機でその効果を実証し、1941年に実用化を果たしました。
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ゴンドラの現物です。乗るのを考えただけで目が回る・・・。なお、画期的だった水を使った耐Gスーツはものの数年で空気式のスーツに淘汰されてしまいました。戦闘機の行動範囲が気温の低い高高度へ移行していくと、熱伝導性が高くかつ氷点下で凍結してしまう水ではパイロットの体温をみるみる奪ってしまうのでアカンわけです。あとは装着するとすげー重いのも問題でした。数年度にアメリカ軍が開発した空気膨張式の耐Gスーツが登場するとそれが一般化しました。
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今度は四輪車です。オールズモビル・スーパー88デラックスセダン (Oldsmobile Super 88 Deluxe Sedan) ですぞ。1956年GMカナダ製。この時代のオールズモビル乗用車のベースモデルで、スーパー88はその上位グレードという位置づけ、だそうな。
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F-86セイバーとMiG-15という朝鮮戦争永遠の好敵手の並びです。ただここの機体はよく見るとびみょーに違うものが置いてあります。
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カナディア・セイバーMk.6 (Canadair Sabre Mk.6) です。1947年初飛行。いわゆるノースアメリカンF-86セイバーです。1950年~1958年にはカナディアでもライセンス生産していました。かつてのカナダ空軍の主力戦闘機でした。今まではイギリス製戦闘機を導入してきましたが、NATO加盟国の責務を果たすためにセイバーを選択したとされています。1950年代初頭のNATOでは(アメリカを除いて)カナダ空軍のセイバー以外には後退翼を持った戦闘機はおらず、無敵状態だったそうな。カナダのセイバーはカナディアで生産されました。初期型のMk.2は本家F-86と同じ仕様でしたが、Mk.5とMk.6では自国開発したアブロ・カナダ製オレンダエンジンを搭載しました。本家のゼネラル・エレクトリックJ47の上位互換であり、さらにMk.6では前縁スラットを復活させたため機動性も良く、セイバーの中でも最強でした。
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パイロットのコヨーテ(仮名)がよっこらせとコックピットに乗り込もうとしている様子。
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この個体は1955年製。カナダ空軍納品後にNATO最前線の西ドイツの第444飛行隊に配備、西ヨーロッパ防衛を務めました。1961年にカナダへ帰国、1964年に博物館入りしました。塗装は第444飛行隊のコブラマークが残されています。
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WSK Lim-2 (MiG-15bis) です。1948年初飛行。こちらもご存知、ミグ戦闘機です。厳密に言うとポーランドのWSKというメーカーで生産されたLim-2という機種ですが、基本的にMiG-15と同じとくくっていいでしょう。ソ連製だけで1万2千機、Lim-2みたいなライセンス生産機もいれると1万8千機以上造ったベストセラー機でした。ジェット戦闘機としては最多生産数を誇ります。朝鮮戦争で自称北朝鮮軍の機体が華々しくデビューしたのが有名です。この時操縦していたのは自称北朝鮮人でしたが、機体もパイロットもソ連から派兵されたものだというのは、アメリカも認める公然の秘密でした。アメリカ対ソ連の構図になって朝鮮戦争が第三次大戦に膨れちゃうのを避けるためでした。というところまで書いて、いま2024年になって宇露戦争で北朝鮮がロシアに派兵しているのはこの時の構図を反転させたみたいじゃないか...という気づきを得ました。まあ偶然の事象なんでしょうけども。このように西側諸国の鼻っ柱を折ったジェット戦闘機なわけですが、その肝心のエンジンは実はイギリスのロールスロイス・ニーンのコピーでした。うっかり労働党がニーンエンジンをソ連へ売却してしまったからですね。間抜けです。
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エンジンを中心に飛ぶために必要な部品を最低限付けただけみたいな贅肉のない機体をしています。おかげでプラモデルを作るときにはオモリを入れる空間が少なくて苦労させられるわけですが(プラモだと重心が後ろ側になり尻餅をつくので機首側におもりを仕込んでバランスを取るのだ)。この個体は1954年製で、初期不良を克服したbis型です。ポーランド空軍で使用されて、退役後はポーランド人コレクターが所有しました。1998年に博物館とこのコレクターとの物々交換により当個体を入手しました。ポーランドからの移送時は、変に機体を溶断したりなどせずカナダ空軍のC-130輸送機2機を使って空輸してきたんだとか。
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燃料タンク付きなのもうれしいです。
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武装は、右舷に対爆撃機用の37mm砲1門、左舷に23mm機銃2門です。
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ビンセント・HRD シリーズBラパイド (Vincent-HRD Series B Rapide) という二輪車。1950年製のビンテージバイクです。どういう二輪なのかよく知りませんが、すげーバイクなんだよ!という記事をよく見ますね。
というところで今日はここまで。
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