引き続き西部航空博物館の本館を見ていきます。
ビードBD-5。1/1航空機キットことホームビルド機のひとつです。家のガレージで作れるやつですね。
隣りにいるF-86と比べると分かるようにとても小さな機体に仕上がっています。デブは乗れないよね。
「お、かっこいいな」と思わせるデザインでして、キット価格は$2,600ほど(エンジン付き)。低価格な部類らしく、5100機分の発注がありました。5000機というと大ヒットと言える販売数でして。
製作時間は3500時間(!)と言われていて、仮に週2日ある休日に8時間/日かけて造ったとして437日間かかります。1年間の土日はだいたい104日あるので毎週末せっせと造っても4年以上。そもそもそんなうまくいくわけないんで、10年は掛かりそうですね、これ。絶対完成する前に飽きるやつだ。ディア○スティーニだ。
しかもその後会社が破産してしまって全ての部品が揃わぬまま・・・というキットが多数発生してしまい、多くはそのまま放棄されてしまったらしいです。哀れ。
最終的には50機とも数百機とも言われる数が完成を迎えました。もちろん飛行機として設計されたので飛行することも出来ます。こんなものでも型式証明取れるってすごいな。
この個体はジェームズ・ボンド主演映画「007オクトパシー」に出てきた超小型ジェット機「アクロスター」と同じ塗装を再現しています(例によって塗装とこの個体との関連はない)。このアクロスターというのがBD-5なわけです。
BD-5はプロペラ機なのですが(尾部にプロペラがある推進式)、実は007に出てきたようなジェットエンジン搭載型のBD-5Jがマジでいました。ジェットエンジンはプロペラシャフトのあるところに据えられました。世界最小クラスのジェット機です。ただし最高速度は480km/hでゼロ戦よりも遅いんですけどね。
ちなみに、日本ではクソマイナーな飛行機なのに映画に出演したからなのか、どういうわけかプラモデルがかつてエルエス模型から発売されていました。同社は倒産して現在はマイクロエースがプラモデルの金型を持っているので、今でも再生産しているのかもしれません。
ノースロップAQM-38A標的機。
1959年から1970年代にかけてアメリカ陸軍で運用されていた訓練用無人ドローンです。超音速が出せるらしいです。
後ろから。翼が付いていて、巡航ミサイルみたいなもんですね。
ノースロップKD2R5「シェルダック」標的機。
これも無人ドローンで、AQM-38よりも古い1947年初飛行。エンジンもレシプロエンジンです。
ノースロップJB-1「バット」。
ノースロップと言えば全翼機です。全翼機というのは胴体や尾翼が無く主翼だけで機体が構成されている航空機のことです。ノースロップB-2爆撃機が有名です。
ノースロップの創始者、ジャック・ノースロップは全翼機が大好きで、1929年にはX216という実験機を飛ばしています。そもそもノースロップ社が全翼機造ったるぜという目的で設立されたようなもんやし。
全翼機は空気抵抗の低減や軽量化が出来る(なにせ胴体や尾翼がないのだ)一方で、操縦が難しいという欠点があります。この欠点の克服が難しかったようで、機体制御をコンピューターがやってくれるフライバイワイヤが実用化されるまではどうしようもなかったと思います。
ノースロップの悲願は先述のB-2で達成されるわけですが(この時ジャック・ノースロップはとっくの昔に引退していて病の床だったものの、軍の特別許可を受けて当時軍事機密だったB-2の模型を見せてもらったという逸話はB-2開発史ではよく出る話)、それまでの間に色々試してたんだぜ!・・・という機体のひとつがこのJB-1。
第二次世界大戦中、ドイツのV-1飛行爆弾を見たアメリカ陸軍は1943年に「ノースロップ~、僕もドイツみたいな飛行爆弾が欲しい~!」とせがみ、飛行特性を調べるための有人グライダーJB-1と、ジェットエンジン搭載の無人飛行爆弾JB-1Aが1944年に造られました。
グライダーのJB-1は無事開発完了しましたが、本番のJB-1Aは発射試験中、射出直後に墜落してしまいます。こりゃエンジンが悪いよね、と判断されてJB-1は開発中止が言い渡されてしまいます。
その間にせっせと開発していたもうひとつの飛行爆弾JB-2は順調に進み、こっちが採用されることになりました。といってもこれ、V-1をアメリカがコピーした兵器なんですけどね・・・。
ここのJB-1は現存する唯一の機体です。スミソニアンのN-1M、プレーンズ・オブ・フェームのN-9MBと共に、現存するノースロップ全翼機3兄弟の一角です。
これにはキャノピーが付いているのでグライダー型ですね。全翼機と謳っていますが垂直尾翼はあるし胴体もあるしで、完全な全翼機とはいい難いところ。
胴体に関しては、なにせエンジンと爆弾を積まなければいけないのでどうしようもないです。全翼機の意外な欠点はコレで、機体を主翼だけにして薄っぺらくしたはいいけど、エンジンと爆弾と人間はどこに載せるの?となってしまいます・・・。爆撃機くらいの大きさだったら大丈夫なのかもしれないけど。
射出座席。ふーんって感じで。
こ、これはノノノ、ノルデン式爆撃照準器 Nordan bombsight!!
アメリカ陸軍航空隊が使用していた爆撃機が水平爆撃する時に精密爆撃出来るよう爆撃手が使う照準器です。元々は海軍が洋上の艦船を爆撃する時に使うためのものとして開発されました。
ただの狙いをつけるだけの照準器という代物ではなく、これのキモは一度照準をつけるとこの爆撃照準器が爆撃地点まで機体を自動操縦、爆弾投下地点に到達したら自動で爆弾を落としていくということ。ここまでされるともう爆撃管制システムと言って差し支えないです。70年前にそのような演算装置と自動操縦装置が!?と驚きますよ。
ノルデン(以下略)は照準部 sighting head と安定装置 stabilization platformの2つで構成されています。 ここに置いてあるのはあいにく上側の照準部だけなのですが・・・。ここでいう安定装置とは照準部の水平を保つ装置という意味もありますが、それだけではなく機体も安定させちゃうぜという想像するよりもデカい意味なのです。
この標準部にはコンピューター、接眼鏡、諸元を入力するためのいくつかのダイヤルなんかがあります。コンピューターといっても我々の想像するようなものではなく、歯車やカムなどで演算を行う機械式アナログコンピューターです。
左側の球体状の物に付いている覗き窓はジャイロ装置で、これで機体の水平とか進行方向とかを読み取ります。真ん中のタイヤみたいな覗き窓は、地上の景色と対気速度、風速、風向き、高度などが計算できる目盛りが付いています。それを読み取ってダイヤルを回してコンピューターに入力していきます。
すると後はコンピューターが爆弾の弾道を計算して、爆撃照準器と爆撃機の自動操縦がリンクされて爆撃射程距離と目標上空での爆弾投下まで、機体を爆撃照準器が自動操縦してしまうのです。すごいよね。
コンピューターの計算には機体と地上の爆撃地点の間の現在の角度である「瞬間照射角 Instantaneous sighting angle」と機体と空中で爆弾を投下する地点の角度である「希望投下角 Desired dropping angle」の2つを使うんだそうな。
自動操縦によって爆撃機は適切な進路を取っていくことで、瞬間照射角と希望投下角の相違は減っていき最終的にはゼロになります。この瞬間、コンピューターが自動で爆弾を投下するようです。
すごい装置なんですよ、これ 。
よく分かる解説!(手抜き
この博物館は空港の格納庫を1棟使って運営しているというのは前前前回くらいに書きましたが、その向かいにも何かあるので覗いてみると、ありゃ、こいつはハリアーじゃないですか。中でもこれはホーカー・シドレー「ハリアー」T.4という型式です。初期型であるGR.1型を改良したGR.3型の練習機型というやつです。
ハリアーT.4はイギリス空軍が運用していた機体なんですが、塗装はイギリス海軍のもの。最初はまた縁もゆかりもない塗装だと思ったんですが、経歴(S/N XZ145 or 212026)を洗ってみるとイギリス海軍に貸与されていた時期があり、その時の塗装なのかもしれない・・・という感じです。
自国の兵器が好きすぎて死にそうなイギリス人ミリオタは機体の経歴を詳細に記録していると評判なわけですが、本当なのかもしれないですね。詳細な経歴がこうも簡単に出てくるとは。
ブリストルのペガサスエンジン。まあブリストルは合併されて今はロールスロイスなわけですが。
こんなにガバチョとターボファンエンジンの羽根がよく見える戦闘機もそういないと思います。
ハリアーと言えば、世界初の実用垂直離着陸機(SVTOL機)です。つまりは滑走路で滑走しながら離陸する通常の飛行機と違いその場で垂直に離陸できる飛行機です。
それのキモとなるのがペガサスエンジンです。今見たとおり空気吸入口は普通のジェットエンジンと同じですが、噴出口は大きく異なり4つ(左右2つずつ)に分かれているのが特徴です。
先端には可動式のノズルが付いていて、垂直離着陸時にはノズルを垂直(下向き)に、水平飛行時にはノズルを水平(後ろ向き)に動かすことでジェット噴流を偏向させて飛行するわけです。ただしノズルを下向きから後ろ向きに動かす時に主翼に十分な揚力が無いと(=揚力を持つだけの速度に無いと)たちまち墜落してしまうんですけどね。SVTOL機がなかなか上手くいかないのはここを克服するのが難しいからです。
ハリアーも実は実際の運用では垂直離陸は殆ど行われていなかったと言われています。垂直離陸だと主翼の揚力が使えませんから、エンジン出力のみで機体を持ち上げる必要があります。
ペガサスエンジンの最大出力だと、機体を持ち上げるのがせいぜいだったと言われていますから、武装した状態だと機体重量がエンジン出力を超えてしまい垂直離陸が出来ないそうな。なので、離陸時は滑走してエンジン出力の他に揚力にも機体重量を分担してもらおうというわけです。それでも普通の固定翼機と比べると短距離で離陸できるらしい。
あとは、垂直離陸時はなにせ最大出力近くまで出す必要があるんで燃料をバカ食いするとか。
SVTOL機があまり開発されないのは技術的な困難というよりも運用面でメリットがそんなに無いからという印象です。
トーランス空港の滑走路の方を覗いてみます。定期の旅客便や貨物便は飛来せず、自家用機やチャーター機なんかが発着しています。敷地内には格納庫がたくさんありまして、あの中は全部自家用機なんだろうなーと。
ここから見える範囲にも自家用機がたくさん駐機されています。
中にはこんな機体も。プロペラ練習機と言えばこいつ、ノースアメリカンT-6「テキサン」です。
元々は昔の軍用機なんですが、払い下げられたかなんかで民間に渡って自家用機として余生を過ごしていました。アメリカ軍の塗装をしていますが、民間のNナンバーのレジが登録されています。
博物館のおっちゃん曰く博物館のものではなくて個人所有らしい。日本だとクラシックカーを持つような感覚で昔の飛行機を飛ばしているからこの国はすごいですね。
他にも整備を受けてるセスナ機とかがいました。
はい、これで西部航空博物館編はおしまいです。
初っ端から濃いメンツを拝むことが出来ました。小さい博物館なので見学にそれほど時間を取られることは無いと思います。肩慣らしにはばっちりでした。
それでは次の博物館へと向かいます・・・。
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