前回に続き外国機の格納庫を見て行きます。
これはドイツの断末魔1号ことハインケルHe162A-2ザラマンダー(フォルクスイェーガー)(1944年・148機目)
これ初めて見たやつです。なんか小さくてかわいいな、というのが第一印象。
もうドイツが負けそうだなっていう第二次世界大戦末期、「パパっと簡単に作れてバーって練度の浅いパイロットでも操縦できてガツンと強力な戦闘機が欲しいの」というドイツ空軍の正気を疑う無茶苦茶な要求が発端でした。そんなん出来たら最初からやってるわけで、つまりこんなの無茶苦茶な要求なのですが、うっかりハインケル社がそれに応えてしまったために生まれてしまったジェット戦闘機なのです。
要求が出される以前より予備的な設計や風洞実験が済んでいたとは言え、設計案の採用から2ヶ月で初飛行していて、驚異的というほかありません。人間やればできるもんだ。
背中に背負う形のジェットエンジンに高翼配置の主翼、20mm機関砲、木製の胴体など見どころが多いやつです。
誰でも操縦できる「国民戦闘機」となるべく112機生産されましたが、撃墜記録ゼロのまま終戦を迎えます。南無。
珍しい先端兵器ではあったので、例によって連合軍により接収され、その後放出された機体が各地の博物館で現存しています。アメリカに3機、イギリスに2機、カナダに1機、ドイツに1機の計7機で、数自体は少ないですが残存率は6%と高めです。
最も目につく背中に背負ったジェットエンジン。BMW003エンジンだそうで、有名なユモエンジンではないのね。
この配置は、エンジンは1機だけ搭載という制約から導かれたんだと思います。主翼の上、つまり重心点にエンジンを置くという発想は後のジェット戦闘機を見れば分かるように大正解なのですが、機外に露出しているという点では詰めが甘く、アメリカのP-59には及ばないです。He178では大正解だったんだけど、まあ急ごしらえだし・・・。
ちなみにここにエンジンを置くと風防の真上で空気を吸引することになるので、もし空中で脱出することになった際にパイロットがエンジンに吸い込まれてミンチよりひでぇやという状態になりかねんという問題が・・・あるんですが、実害は聞いたことないんでなんとかなってたのか、表面化してなかっただけなのか。
機首まわり。
降着装置がとにかく短足だ!というのが気になります。脚の長さは短いほど重量が軽くなるので良いのです。今まではプロペラがあったのでそれが地面と接触しないよう高さを稼ぐ必要があったわけですが、ジェット機になればそれも不要ということでめっちゃ短足になりました。
機首の下面には20mm機関砲が2門あります。プロペラとレシプロエンジンが無くなったことで大口径機銃を機首に集中配置できるようになったのもジェット化の恩恵のひとつです。機首に機銃を置くのと主翼に置くのとではどちらが狙いを付けやすいかは自明ですね。この配置にしたいためにエンジンを機外に背負ったという可能性はあります。
He162の場合、初期型はより強力な30mm機関砲を積んでいましたが、強力な反動に耐えられないことが分かったので改良型では20mm砲に弱体化しています。改良型のほうが攻撃力が弱いのは珍しいですね。同じ機関砲を倍の4門装備していたMe262ではそういうことが無かったそうなので、He162はよほど構造が弱かったのかもしれません。
なお胴体前部、主翼などは資材削減のため木製です。ジェット機なのに・・・。エンジン排気の熱を受ける胴体後部だけは金属製だそうな。
後ろから。尾翼が変な形をしているのもHe162の特徴のひとつです。
まず目につくのが垂直尾翼が双尾翼になっていること。通常見られる胴体上に1枚の尾翼だと、ジェットエンジンの噴流をモロに受けて大変なことになるので、それを避けるためだということが分かります。
次に水平尾翼ですが、やけに上反角がキツく付けられています。正確なことは分からないのですが、着陸時に尻もちを着いた時に破損するのを防ぐためなのかな?と。
今書いたようにHe162は異常に短足なので胴体と地面の高さにあまり余裕が無いのですが、これにより着陸時に尻餅を着くという欠陥が生まれます。これの対策として胴体下面に尻餅防止用のコブを取り付けているのが見えるかと。
どうも応急的な対策に見えて、やっぱり急ごしらえで設計の詰めが甘いような。
He162のエンジン、BMW003 E-1エンジンも外された状態で展示されていました。
アメリカとイギリス(とそこのエンジンをコピーしたソ連)が遠心圧縮式ジェットエンジンを採用したのに対して、ドイツは軸流圧縮式エンジンを採用していたのでした。
超強力扇風機のような形のタービンブレードを何段も重ねることで空気を圧縮してそこに燃料を吹き付けて燃焼させることで推進力を得るやつです。技術的に難しいエンジンなので当初米英は軸流圧縮式を採用しませんでしたが、遠心圧縮式は高出力化に伴いエンジン直径がデカくなる一方で次第に飛行機に積むには現実的でなくなりました。一方軸流圧縮式はタービンブレードの段数を増やすだけでパワーアップ出来るので長さは長くなっても直径は変わらないので使いやすく、現在は米英も軸流圧縮式に切り替えています。近年のジェットエンジンはほとんどこの軸流圧縮式です。
003には7段のタービンブレードで圧縮していました。
ホルテンHo.IV(149機目)
全翼機大好き兄弟ことホルテン兄弟が開発した全翼機のグライダーです。
全翼型ジェット爆撃機Ho229のテストベッドのひとつかと思われ。Ho229自体よく知らないんのであまり書きようがないのですが。
レプリカかと思いきやドイツから接収された本物なのだそうです。アメリカ内で試験飛行もされたそうで。
ハインケルHe178(1939年・150機目)
ドイツが開発した世界初のジェット機です。1939年というと零戦の初飛行と同じ年ですから(さらに日付まで見ると零戦よりも先に飛んでいるのだ)、やはりナチスの科学は世界一ぃ!・・・ですかね。
なのですが、ジェットエンジン搭載機以外に特徴らしい特徴はなく、性能も最新鋭プロペラ機よりも低かったとかで、あまり目を引くことは出来なかった模様。ナチスから冷や飯食わされてたハインケルというのもあるでしょうが。
エンジンは胴体内にあって機首から吸気するという正解のエンジン配置をしているんですが、これが後の大戦期ジェット機に活かされることは無かった模様・・・。よほど冷遇されてたと見える。
試験を終えた機体はベルリンの博物館で余生を送っていましたが不幸にも連合軍の爆撃を受けてしまい、現存機はありません。なのでこれはレプリカということになります。
フォッカーDr.1(1917年・151機目)
第一次世界大戦期のドイツの三葉機です。イギリスのソッピース トライプレインの性能に驚いて開発されたとか。
主翼が3枚(加えて主脚の間の板も4枚目の主翼になってたので実質四葉機)もあるので機動性は良かったそうな。ただしその分抵抗も大きいので速度は出なかった模様。
第一次世界大戦のエースパイロット赤い男爵ことマンフレート・フォン・リヒトホーフェンの搭乗機ということでこの時代の機体の中では有名な戦闘機なのです。このレプリカもリヒトホーフェン乗機を再現して真っ赤に塗られています。某赤い彗星の元ネタとも言われていますね。
メッサーシュミットBf109(1935年・152機目)
復元待ちと思しきドイツの戦闘機です。この個体の来歴等は不明。
残骸みたいな状態ですが、外板はほとんど残ってますし、もしかして資料性が高いのでは?恐らく復元されるとかなりの部分に手が加えられると思います。
ドイツの断末魔2号ことMe163Bコメート(1939年・153機目)
史上唯一のロケット推進式の戦闘機で、その超加速を用いて一気に高高度へ到達、連合軍の爆撃機を30mm機関砲で一撃のもとに撃ち落とす機体です。
これは木製モックアップなので本物ではないです。ただし実機も木製だったので妙に手の込んだレプリカということに。
バルター109-509Aロケットエンジン。上の写真と比べてみると分かりますが、ロケットエンジンと聞く割にはそんなに大きくないのだ。
機体のノーズアート。ロケットエンジンで飛ぶダニが描かれています。結構好き。
なるほど確かに太く短い胴体がダニっぽいなと・・・。
Me163の車輪。分解されているのではなくて、こういう仕様です。
この車輪は機体に簡単に取り付けられているだけで、離陸すると外れてしまう仕様なのです。着陸する時は胴体のそりを展開させて着陸します。無茶するねぇ・・・と。
V-1飛行爆弾のジオラマ。レールに乗せて発射するのだ、というのが分かります。
これは固定式の発射機でしょうね。連合軍が血眼になってこの発射機を探し当ててボコボコに爆撃しましたので、以後は移動式の発射機に移行していったはず。
ハインケルHe100D-1(1938年・154機目)
この博物館やけにハインケルが多いけど、好きなのかな・・・?
ドイツ空軍戦闘機の制式採用競争でBf109に敗れたHe112のリベンジをすべく改良した戦闘機なのだそうな。
性能は悪くなかったけども冷遇に定評のあるハインケルなので、やはり本格的に採用はされず・・・。少数がプロパガンダ用に使われただけなのでした。
現存機はゼロでして、ここにあるのはレプリカです。とはいえレプリカでも唯一のHe100だそうです。
モックアップなのもあると思いますが、妙に野暮ったいなと。
主翼の途中から上反角が付いている逆ガル翼が特徴で、同社の戦闘機の特徴でもあります。
グッドイヤー 飛行船(155機目)
飛行船のコントロールカーですね。グッドイヤーはアメリカの企業なので、これも置き場所がなくてとりあえずここに放り込まれた感じかね?
グッドイヤーは世界でも大手のタイヤメーカー、ゴムメーカーなのですが、1910年代から飛行船を飛ばしていました。これがきっかけになってWWII中はコルセア戦闘機のライセンス生産をしていた時期もあったんですがそれはまた別のお話。
説明が無いのと、グッドイヤーは現在も飛行船を飛ばしているんで、どのコントロールカーなのかは分かりませぬ。
というところで今日はここまで。
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